操法大会は本当に必要か?訓練に苦しむ現役消防団員の声

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はじめに、私は消防団員歴10年目。これまで操法大会には毎年出場し、可搬ポンプの指揮者、1~3番員まですべて経験済みの現役消防団員です。

また、操法大会だけでなく実際の火事場にも出動して、最前線で耐火服を着て放水したり、行方不明者が出たときには人探しをしたりといった経験もあります。

そんな私は、入団からこれまで、『操法大会の必要性』に対してずっと疑問を抱いてきました。

この記事では、操法大会の目的を振り返りつつ、これからの消防団の訓練のあり方についても書いているので、ぜひ参考としていただけると嬉しいです。

この記事は、こんな人にオススメです↓↓

  • 操法大会の必要性に疑問を抱いている方
  • 操法大会を廃止または中止するにはどうしたらいいのかお悩みの方
  • 操法大会の代わりにどういった訓練が考えられるのか知りたい方

操法大会は何のためにやるのか?

そもそも『操法』とは、消火活動における基礎的な動作をまとめたもので、消防団員が火災現場の最前線で安全に活動するために重要なものです。

実際の火事場でも、操法の訓練をしていたおかけで、慌てることなく安全に水を出すことができたよ。

では、『操法』だけでなく、『操法大会』はどのような目的があって開催されているのでしょうか?

総務省消防庁のホームページには以下のように書かれています。

全国消防操法大会は、都道府県代表の消防団の皆さんが、迅速、確実かつ安全に行動するために定められた消防用機械器具の取扱い及び操作の基本について、その技術を競う大会です。

全国消防操法大会|消防団 オフィシャルウェブサイト (fdma.go.jp)

つまり操法大会の目的は、『操法』で身に付けた消火技術を、他の消防団等と競い合うことで、さらに向上させようということです。

私の疑問はまさに「技術を競い合う」という点にあります。


なぜ操法大会に疑問を抱くようになったのか?

まずはじめに、私は、『操法大会』の開催に疑問を抱いているだけで、『操法』そのものを否定している訳ではありません。

操法は、経験の浅い団員が簡潔に消火技術の基礎を身に付けるための訓練として、非常に有用であることは事実であり、私も重々理解しています。

そのうえで、『大会』という競技性の高い場所でのお披露目は必要なのか?早朝や夜間の必要以上の訓練は必要なのか?もっとやるべきことがあるのではないか?というのが私の問題提起です。

この前提をご理解いただいたうえで、以下を読み進めていただきますようお願いします。

操法大会に向けた訓練期間と時間

私が操法大会に疑問を抱くようになったのは、入団1年目に初めて操法の選手を務めたときからでした。

経験者なら理解してもらえると思いますが、大会に向けての訓練期間は、憂鬱以外の何物でもありません。

その要因の多くは、ほぼ間違いなく訓練期間と時間です。

私の住む自治体の操法大会は、毎年6月下旬に行われます。

そして、それに向けた訓練が5月のゴールデンウィーク前後から始まり、週4日ほど行われます。

朝5時前に練習会場に集まって、終わるのは朝7時過ぎごろ。

そこから帰宅してシャワーを浴び、身支度をして職場へ向かう。2か月間はこれの繰り返しです。

早朝から大声をあげ、全力でダッシュをするため、仕事中は眠たくて仕方ありません。特に昼食のあとは睡魔との闘いです。

大会も近くなり、訓練がピークを迎えたときには実際に寝落ちしてしまったこともありました。

また、早朝訓練のため、就寝時間は早くなりがち。

残業をした日には、帰宅してご飯を食べてお風呂に入って、気づけば就寝時間です。テレビを観てゆっくりくつろげる時間などはほぼ無くなります。

さらに、朝は家族を起こさないように気を使って準備をしなければいけないので、常にストレスです。

地域を守るための訓練とはいえ、日常生活に支障をきたすような活動はいかがなものかと思ったのが最初の疑問でした。

訓練をしているのは選手だけ

私の分団には20名以上の団員が所属していますが、訓練には指揮者、1番員、2番員、3番員の選手4名と、分団長と副分団長、サポートとしてその他数名が来るか来ないかです。

自分でやりたいと手を挙げて訓練に取り組んでいる訳でも無く、ただ若いという理由だけで半ば強引に選手を押し付けられたあげく、サポートも来ない訓練環境は最悪です。

また、仮にサポートが来たとしてもホースを数本巻いてくれるか、おしゃべりをして帰っていくだけ。

要するに、操法大会に向けた訓練ではあるものの、所属する20名ほどの団員のうち、実際には4名の訓練にしかなっていないということです。

果たしてこんな状況で『消防団としての訓練』と呼べるのか、そう思ったのが2つ目の疑問でした。

火事場の実情に合わない訓練

操法大会では、決められた動作、機械器具操作が行われているかなどを審査され、できていなければ減点されていく仕組みです。

しかしながら、火事場の実情に合わない動作も多く、それに訓練時間が割かれることは珍しくありません。

これについては、令和4年度から操法大会の審査方法の見直しが行われ、これまでパフォーマンス性が高かった動作については、省略されることとなりましたが、それでも見栄えを気にする風潮は変わっていません。

例えば、現在でも訓練中には以下のような指摘を受けることがあります。

  • 『点検報告』の、1番員異常なし、2番員異常なし、3番員異常なし、のリズムがバラバ
  • 気合が感じられない、声が小さい
  • この動作をもっと早くすれば、あと1秒早く水が出せる
  • 指先まで神経を集中させて、もっとメリハリのある動きを意識して

↑↑これらの指摘は、火事場で全く役に立ちません。

1秒でも早く水を出せたらとは思いますが、火事場は操法大会のように決められた場所からホースを伸ばして放水する訳ではありません。

現場に合わせて水利を確保し、何より事故無く安全にホースをつないで放水する必要があります。

また、気合いも必要ありません。消火するぞ!と意気込むのは結構ですが、火事場では火元を的確に判断し、確実に鎮火することだけ求められます。

さらに、無線で指示を出し合うことがほとんどのため、消火と関係ない場面で大きな声を出すこともありません。

文句を言いだせばキリはありませんが、実情に合わない訓練を未だに行っているという点が、3つ目の疑問です。


各地で操法大会が廃止や中止となるなか大会を強行

近年各地の消防団で、操法大会のあり方に改めて目を向け、廃止や中止に踏み切る自治体が出てくるようになりました。

操法大会は、消防団員である以上は絶対に参加しなければいけないと思っていた私は、「自治体の判断で操法大会を廃止や中止にできる」ということをそのとき初めて知りました。

と同時に、自らの所属する消防団も操法大会を廃止してくれと強く願いました。

(それは決して個人の願いではなく、全国の消防団員の願いだと信じています。)

しかし、私の自治体では特に団員に対して問いかけられることもなく、廃止や中止になることもありませんでした。

後から話を聞いてみると、廃止については幹部会議の場で提案があったにも関わらず、団長は取り合ってくれなかったそうです。

たしかに操法大会を廃止するということは、これまでの歴史を大きく変える選択です。

その選択を取ることで、OBや消防委員からアレコレ言われるのは、まず間違いなく団長でしょう。

それでも実際に廃止や中止に踏み切った消防団があるのは、そういった反発の声をいとわず、団員の声を汲み上げて行動してくれる団長の存在があったからだと思います。

団長から、さらに上の人たちに打診したうえで却下されたならば、「現場の実態も知らないお年寄りたちが騒いでいるんだな」と少しは怒りの矛先も代わりますが、現場を知る団長が却下したとなれば、それは自身の保身としか考えられません。

そんな昭和体質が根強く残る消防団・団長の姿勢から、私は4つ目の疑問を抱きました。



まとめると、以下の4点が私の操法大会に抱く疑問です↓

  • 日常生活に支障をきたすほどの過酷な訓練
  • 指揮者、1番員、2番員、3番員の4名しか訓練になっていない
  • 火事場の実情に合わない訓練内容
  • 操法大会の廃止や中止に踏み切る消防団もあるなか、団員の声に耳を傾けずに強行するほど価値のある大会なのか




『消防団員の処遇等に関する検討会』で操法大会のあり方の議論が行われる

操法大会に対して疑問を抱き続けてきた私でしたが、少しだけ変化を匂わせる希望の光が見えました。

それは、令和2年12月24日(木)、総務省消防庁主催により『消防団員の処遇等に関する検討会』の第1回が開かれたというもの。

この検討会では、消防団員の出動手当や年額報酬のほか、消防団を取り巻く社会環境の変化や訓練のあり方などについて、議論が行われました。議題には、これからの操法大会のあり方もあがったそうです。

この検討会は全7回開催され、令和3年8月には『最終報告書』として検討結果が公開されました。

この報告書から、消防団活動の参加への阻害要因となっている操法大会のあり方について、消防庁も本気で検討していることを読み取ることができました。

最終報告書の14Pには、操法大会のあり方・見直しについて以下のような記載がありました。

実際の災害に合わせた装備や内容による大会の実施や、出場隊を輪番制にすることによる毎年の訓練の負担軽減順位をつけない発表会形式として過度な競技性を抑止するなどの手法が考えられる。

最終報告書.pdf

「順位をつけない発表会形式として過度な競技性を抑止する」と書かれている通り、消防庁としても競技性の高くなる操法大会の開催は求めていないことが明確になりました。

さらに読み進めていくと、各消防団が訓練のあり方について検討・見直しを図り、必要な取り組みだけを実施して、地域防災力の向上につなげることが求められているということが分かりました。


私の考えるこれからの訓練のあり方

上記検討会での最終報告書から、操法大会の開催は必須ではないことが分かりましたが、それでも勝手に操法大会を辞める訳にはいきません。

操法大会を廃止または中止するためには、OBや消防委員、地域住民への理解が必要だからです。

特に活動費を出していただいている地域住民への理解は何よりも重要であり、これまで操法大会を通じて消防団活動をアピールしてきた点は否定できません。

だからといって、操法大会を現状のまま続けることは、これから先の消防団の衰退を見て見ぬふりしているようなもの。

それでは、操法大会の代わりに、地域住民に活動をアピールするために、私たち消防団はどのような訓練を行うことが正解なのでしょうか。

消防庁での検討会の結果や、地域住民への理解を得られるやり方を考えた結果などから、いくつか提案させていただきます。


各分団独自の訓練の実施

消防団は、お住まいの自治体の地区ごとに、いくつかの分団で組織されています。

同じ消防団とはいえ、考え方は各分団それぞれ違うものです。

この提案は、各分団それぞれ必要だと思った訓練を、自由に実施するのはどうか、というものです。

もちろん操法をすることも問題はありません。むしろ勧めたいくらいです。

各分団が独自に行う操法訓練であれば、勝つためにタイムを競うなどといった競技性は無くなり、本当に必要な動作や基本操作を身に付けることが期待されます。

また、大会ではないので、選手だけ訓練すればいいという押し付けの概念もなくなります。

全員を選手として、全員が各番手の動きを確認しながら知識をつけることもできますし、何より火災を想定して実情に合わせた訓練を取り入れることもできます。

例えば、タイムを気にしない操法や、放水の号令を無線で行うようにしたり、火点を複数設置したりするのもいいかも。

さらに各分団の管轄する地域の特徴に特化した訓練を組むこともできます。

例えば、山を管轄する分団は水利がなかなか確保できないことから、長距離の送水が必要となります。つまり山道や坂道での中継訓練をすることも考えられますね。

このように、訓練内容のアイデアは色々出てくると思います。

教本通り行うだけの操法と比べれば、訓練を考える手間も増えるし大変かもしれませんが、一度動き出してしまえば、あとは団員たちのやる気次第でなんとでもなります。

何事も最初の一歩が大変なだけ。早朝5時の操法訓練を週4日で2カ月間やるよりは、よっぽど楽だと思います。

想定される訓練の例を挙げるので、ぜひ参考としてください↓↓

  • 実際の火災を想定してオリジナルの要素を組み込んだ操法訓練(タイムによる加点・減点をしない、放水の号令を無線にする、火点を複数設置する等)
  • 山道(坂道)など、消火栓が近くに無い状況で、長距離の送水を想定した中継訓練
  • 土のうの作り方や積み方の訓練
  • 大規模災害を想定した避難所の設営訓練
  • 火事場などを想定した無線の使い方の訓練
  • AEDや心臓マッサージ、人工呼吸による応急救護訓練



消防署や自主防災組織との連携による訓練

私たちの住む自治体には、地域を管轄する消防署や地域住民による自主防災組織が存在しています。

そもそも消防団の役割は、火事の一報を受けた消防署が、現場に到着するまでの間に行う初期消火や、飛び火などによる周辺住宅への被害を最小限に抑えるといったサポートの側面が強いです。

火事場では、消防署と消防団は一緒に消火活動をすることが多く、その連携を想定した訓練は必須となります。

消防署と連携した訓練を年に数回行う自治体は多いと思いますが、操法大会を無くす代わりに、この訓練回数を増やすことで、より一層の連携強化が図られるとともに、地域住民の生命や財産を守ることにもつながります。

そして、自主防災組織は、消防団の役割に近いものがあり、災害時の初期消火や避難誘導など、地域住民の連帯意識に基づく自発的な防災組織です。

近隣住民により構成されていることから、消防署や消防団よりも早く災害を察知することができ、消火栓を使った初期消火活動などが期待されます。

しかし、せっかくこれだけ優秀な防災組織があっても、実際に消火栓を扱って水を出せる住民は何人いるでしょうか?

年に数回ほど消火栓を使った訓練は行われていても、時間が経てば忘れてしまいます。

それに消火栓は一人で使えるものではないので、複数人で訓練を行う必要もあります。

そういった観点から考えても、消防団が自主防災組織に消火栓の使い方の講習や、消火器の使い方などを指導することで、自主防災の意識は高まり、より安全な地域に育っていきます。

そのためにも、操法大会なんてやっている場合ではなく、消防団と自主防災組織の訓練回数を増やすことが大切なのではないでしょうか。

  • 消防署との合同訓練を通じて、さらなる連携強化を図る
  • 自主防災組織への消火栓や消火器の使い方の指導を行い、地域防災力のより一層の底上げを図る



地域の祭りやイベントに参加して広報活動

地域住民への活動のPRは、訓練だけではありません。

人が多く集まるお祭りや、各種イベントに参加して、消防車両を展示したり、実際に乗車させたりして、消防団の活動をPRすることもできます。

すでにそういった取り組みを行っている場合は、参加するイベントの数を増やしてみたり、むしろ消防団主催のイベントを開催したり、保育園や小学校などに出向いてみるのもいいでしょう。

若手の団員減少が全国的な課題なのであれば、なおさら将来の可能性のある子どもたちに、小さいうちから消防団のことを知ってもらう取り組みは効果的です。

操法大会などやっている場合ではなく、直接地域住民に寄り添う活動に重点を置いてみるのは重要だといえます。

  • 祭りやイベントに参加して、消防車両の展示や乗車体験をしてもらう
  • 消防団主催のイベントを開催する
  • 保育園や小学校など教育施設へ出向き、将来消防団員になる可能性のある子どもたちに消防団を身近に感じてもらう



まとめ

今回は、消防団員歴10年目の私が、操法大会に抱える疑問とともに、操法大会の代わりに行ったらいいのではないかと思う訓練や活動内容について紹介させていただきました。

消防団の活動は、現状では操法が9割と言っても過言ではありません。

それは時代の変化とともに変わらなければいけないし、実際にそういった動きが目に見えてきています。

若者の消防団離れが取り返しのつかない事態になる前に、あなたの所属する消防団でも、少しでも早く手を打つことが重要です。

操法大会が必要かを考える団員にとって、この記事が参考となれば嬉しいです。

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